1 君を知ってから虹を見ない [君虹【完結】]


1・杉田・1995年4月


      


僕が松下実津子(まつしたみつこ)という人物を初めて知ったのは、高校2年の時だった。


 


春休み明け、始業式のあった日に、新しいクラスの仲間の一人として彼女がいたんだ。


 


僕好みの美人だったから、目が行ったというのもあるけど・・・


 


僕は前の席の、一年のときも同じクラスだった斉木(さいき)にちょっと聞いてみた。


 


「斉木ィ」


 


「なん? 杉田(すぎた)」


 


杉田というのは僕のこと、ついでに下の名前は文一(ふみかず)という。


 


「あの席に着いてる松下さんていう人、


 


なにかクラスに馴染んでいないみたいだけど、どうしたのかな?」


 


「うん? どいつ」


 


斉木は僕の示したほうを見た。


 


「ああ、見たことない顔だな。ちょっと大人っぽい感じがする・・・ような」


 


「うん」


 


「気になるなら、お前が話しかけろよ」


 


「そっか」


 


「あほ」


 


僕はできるだけ自然に声をかけた。


 


「松下さん」


 


「はい?」


 


あー、やっぱり美人だ。サラサラのセミロングに、細めのあごと奥二重の優しそうな目。


 


「松下さんて、前は何組だったの? このクラスに知り合いはいないの?」


 


松下さんは答えた。


 


「いないねえ。私は2年からの転校生なのだよ」


 


「へえ」


 


「・・・」


 


「じゃあ、前はどこにいたの? 転校はやっぱり親の都合で?」


 


 


 


2・松下・同日


 


「そう、前は都内に住んでいたんだ」


 


と言っておけば嘘じゃない。


 


「親の転勤でね、ついてきたんだ」


 


「ふーん」


 


「・・・」


 


「じゃあ、彼氏とか、いたら、遠距離になっちゃうね」


 


「いないよ^^」


 


「うそー」


 


「嘘じゃないよ」


 


「ほんと? 松下さん美人だから、きっといると思ったよ。なら、俺どう?」


 


おいおい、なんだ見かけより軟派なやつだなあ。


 


「私は大学受験に忙しいから、彼氏は要らないよ」


 


これも本当。


 


「えーっ! まじ? まだ2年になったばっかじゃん!」


 


あれ、残念そうな顔。でも私は少し冷たく言った。


 


「私の勝手だね」


 


「でも、じゃあ、友達なら必要だよね」


 


ふうん。


 


「まあね」


 


杉田文一。この学校で最初の友人。


 


誰かの声がした。


 


「なに、お前クラスの女なんかナンパしてんの?」


 


「ははは」


 


 


 


3・杉田・同1995年6月上旬


 


中間テストの結果が返ってきて、僕と斉木と松下とで結果を見せ合ったら、


 


僕と斉木は松下の出来に目を見張った。


 


だってこの人、国語・英語2科目・数・理・日本史の6つのテストで全部が95点以上だったんだ。


 


僕がビビって黙っていたから、斉木が先に聞いた。


 


「松下ー、なんでそんなに出来るんだ?」


 


「うん? 日頃の行いがいいからよ」


 


「日頃の行いって、ホントに毎日勉強ばっかりしてるのか?」


 


「ええ」


 


「松下の趣味ってなんだ?」


 


「趣味? 趣味は勉強じゃあないよ? 読書とか、映画とか散歩とか、


 


その延長で二輪で遠出とかよ」


 


「二輪? 松下、免許持ってるのか?」


 


「え、ああ、まあね」


 


松下はちょっと微妙な顔で答えた。


 


「ほんとに、松下ってすごいんだなあ」


 


「すごかないわよ」


 


すごいだろ。


 


 


 


 


2話目→ http://marscat.blog.so-net.ne.jp/2009-04-01-3 
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