9 君を知ってから虹を見ない(完) [君虹【完結】]
8話目→ http://marscat.blog.so-net.ne.jp/2009-04-10
一年前のあの日から、
止まっていたような毎日が、
今、動き出すかのようだ。
胸が高鳴る。
あのときのように。
松下。
「松下、俺の彼女になってくれ」
「はい。よろしくね」
ちょっと、はにかんで髪をかきあげる松下。どきどきする。
「ああ、こっちこそ」
ああ、松下! こんな日が本当にくるなんて!
と、感動に浸るまもなく椎名さんが言った。
「なにィ、松下、そいつと付き合うのか?」
「・・・いけない?」
「っていうかー。おまえ、俺が責任とろうかと思ってたら追いつくし!」
「なによ。だから、がんばって追いついたもんねえ!」
「うれしいんだか、うれしくないんだか・・・」
椎名さん、松下のこと好きなのかな。
僕がまたつい彼にじいっと見入っていたら、椎名さんは少しだるそうに立ち上がって言った。
「俺、ここらで失礼するわ」
「うん、じゃあ、またあとで」
「ああ」
そして椎名さんはゆっくり建物のほうへ歩いて行った。
22・松下・同日(1997年4月)
椎名。
貸しがある感じがすると、どうも居心地がよくなくて、
やさしい椎名のその心に、素直に答えられないんだ。
それが、愛なのか償いなのかとか、考えちゃって。
わかるかな。
ごめん。
勝手で。
「松下」
「はい?」
「俺の進路が決定したら、スキーに行こうって話、まだ覚えてる?」
「あ、うん」
「次の冬休みには絶対行こうな」
「冬休み・・・」
そういえば、それも待たせっぱなしだね。
「・・・」
「ねえ、それなら今度、ゴールデンウィークに北海道まで春スキーに行かない?
あとで、旅行会社のパンフもらって、まだやってそうなところ探そ^^」
「えっ、まじ? 行く行く!」
「決まりね」
「松下、大好きだ!」
「ばかね」
おわりっ