3 君を知ってから虹を見ない [君虹【完結】]

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8・松下・同1995年9月下旬


 


修学旅行の3日目。


 


今日は午後から班単位での自由行動で、私は杉田と長崎の街を歩くことになっている。


 


班の人数は3人か4人と決まっていたから、私たちは数合わせに、


 


斉木くんと斉木くんが誘ったもう一人の女子を入れての4人の班を作っていた。


 


 


お昼前になり、2年の全員は長崎港の近くで観光バスを降り、解散した。


 


そして、私たちも斉木くんたちと別れて歩き出した。


 


杉田は二人きりになると言った。


 


「俺、今日を楽しみにしてたんだ」


 


「そう?」


 


「そう! ねえ、早速お昼にしないか? どこか長崎皿うどんのおいしいお店知らない?」


 


「おーけい。去年、耳にしたところに行ってみよ」


 


「いえす!」


 


 


 


9・杉田・同1995年同日


 


僕たちは昼食のあと、事前に授業で作った観光計画の通りに


 


(あとでレポートの提出があるから)


 


グラバー園と大浦天主堂と孔子廟を見学して、


 


ついでに、オランダ坂を通って、出島資料館に入って、出た。


 


 


日が傾きかけた頃、同じ制服のやつらのチラホラいる、


 


お土産物屋の並んだ通りではしごして歩いていると、松下が言った。


 


「うちへのお土産にカステラも買ったし、そろそろ集合場所のホテルに帰ろうか」


 


えー。


 


「えー、もう少し歩こうよう!」


 


僕はもっと松下と一緒にいたい。


 


「んー、ここって坂が多いし、私は疲れてきたよ」


 


「じゃあ、待って、地図で公園を探すから、少し座っていこう」


 


「ふむ、公園なら、稲佐山(いなさやま)まで行こうか」


 


「稲佐山?」


 


「稲佐山自然公園。あの山よ。ロープウェイで登るの。長崎駅より向こうだけど、名所よ」


 


「さすが九州通! でも松下、疲れてるんだろう?」


 


「去年は見逃してるから見ておきたい気もするし、バスとロープウェイに乗っている間は座れるよ」


 


「じゃあ、行こうか」


 


「あいあい」


 


 


公園の展望台に登ると、


 


夕暮れの長崎の街が眼下に広がっていた。


 


「いい景色だね! 松下」


 


「うん、最高^^」


 


僕は同じ学校のやつらがいないか辺りを見渡して、


 


知った制服の輩はいなかったからホッとして、


 


次に空いているベンチを探して、松下をそっちに誘った。


 


 


僕たちは何分間か、


 


ただ黙って、


 


日没前の、


 


街明かりを見ていた。


 


 


松下、こんなとき、僕たちが恋人同士だったなら、僕は君の肩に手を回し、


 


その頬に手を添えて、


 


君のその、


 


その、唇に・・・


 


ああ、でも今日、僕は君の手さえも、握ることができなかった。


 


今、


 


ああ、松下! 手を、


 


「杉田?」


 



 


手を取るんだ。


 


 


・・・その心とは裏腹に、僕は言った。


 


「もう、帰らないと」


 


まだ、帰りたくないけど。


 


僕が行き場のない手をゆっくりと制服のポケットに仕舞おうとしたとき、


 


すっと彼女の手が伸びて、僕の手をつかんだ。


 


「ちょっと待って」


 


「・・・」


 


「シャッター押してくれる? カメラの」


 


「ああ、いいとも」


 


それから、僕たちは1枚ずつ写真を撮りあって、その日のホテルに帰った。


 


 


 


 


 


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