4 君を知ってから虹を見ない [君虹【完結】]

3話目→ http://marscat.blog.so-net.ne.jp/2009-04-02


10・松下・同1995年10月


 


あ、杉田がこっちにくる。


 


「まっつしったさん」


 


「なに?」


 


「俺、次の数学当たるんだ。ここなんだけどね、教えて」


 


まあ、そんなこととは思ったけど。


 


「どこ? ああ、答えは7だね。杉田、1時間だけなら私のノート貸してあげるよ」


 


「ノートを? あ、予習してあるんだ。すごいや」


 


「いつもよ」


 


「松下、こんなに勉強できてて、今から受験勉強もしてるのは、


 


 東大にでも行くつもりだからなのか?」


 


「へ。いいや、もうちょっと下ねらいかな」


 


「うーん。分からん」


 


「なにが」


 


「勉強より他に楽しいことができる余裕、松下にはあるようにみえるのになあ」


 


・・・


 


私はニッコリとした顔を作って言った。


 


「勉強って楽しいよ」


 


「うっそー」


 


あ、驚いてる。驚いてる。


 


私はもう一度笑って言った。今度はニヤリと。


 


「うそ」


 


「うーむ」


 


そこへ、始業のチャイムと同時に数学の先生が入ってきた。


 


「ほら、もう戻りなよ」


 


「ああ」


 


「ノートは?」


 


「悪いからいいよ。答えは聞いたし」


 


「そ」


 


 


 


11・杉田・同1995年12月


 


「松下、冬休みはヒマじゃないよね」


 


休み時間、なんとなしに新しくなったカレンダーを見ながら松下に聞いた。


 


ていうか、もう12月なんだな。


 


「ヒマじゃないよ。もちろんお勉強」


 


「ちっ、なんで1年以上も前からそんなに真剣に受験勉強なんてしてるのさ!」


 


「別にィ。確実に受かりたいからね」


 


「がりべん、がりべん、がりべんきー! キー!」


 


「・・・小学生か、あんたは」


 


「だって、冬休みにスキーくらい、誘いたいじゃないか」


 


「なるほど。分かった」


 



 


「えっ、行く? スキーに」


 


「再来年」


 



 


「再来年?」


 


「そう、再来年、3年の3学期に、杉田の進路が決定したら、行こうか」


 


「えええええっ、そんなに先?」


 


「不満?」


 


「不満だよ!」


 


「いやなら別に」


 


松下が、ほんとになんでもなさ気に、あさってのほうを向いた。


 


「うー、じゃあ、でも絶対、再来年行くからな」


 


「うん」


 


松下、ほんとになんでもなさ気に、笑顔でそう答えるね。


 


 


というわけで、僕はこの冬休みも夏と同じ店に雇ってもらって、バイトをしてすごし、


 


冬休み中、1日だけまた松下と映画を見た。


 


 


 


12・松下・翌1996年1月


 


「松下!」


 


「椎名(しいな)! 久しぶりね!」


 


「ああ、同じ会場だな」


 


「うん」


 


「松下、もう体はなんともないのか?」


 


「そんなの、4月から普通に体育の授業を受けてるよ^^」


 


「そうか、それは良かった。今日、がんばろうな」


 


「うん、がんばろうね」


 


「よし」


 


「れっつ、ら、ごー!」


 


 


 


13・杉田・同日


 


今朝は、始業のチャイムが鳴っても、松下は教室に現れなかった。


 


「斉木ー、今日、松下は休みかな?」


 


「俺が知るかよ? 風邪でない?」


 


「めずらしいな。っていうか、今日は風邪大はやり?」


 


「ん?」


 


「学校に人が少ない気がする」


 


「あー、そりゃ、3年がセンター入試だからだろ」


 


「ああ、それって、今日なんだ」


 


僕は窓の側まで歩いて、外のグラウンドを見下ろした。


 


遅刻っぽいやつが一人走ってる以外、誰も歩いていなかった。


 


 


 


 


 


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