5 君を知ってから虹を見ない [君虹【完結】]

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14・松下・同1996年2月14日


 


一応用意してみたけど、ちょっとくすぐったいな。


 


なぜか、人が少ない階段の踊り場で待ち構えてみたりして・・・


 


「杉田」


 


呼び止めて、なぜか、ちょっとどきどきしてみたり。


 


「あ、おはよー。松下」


 


「おはよう。はい、これ」


 


「えっ」


 


「チョコレートだよ。友達としてね」


 


「あーうー」


 


「いらないなら返して」


 


「いる! ありがとう」


 


「どういたしまして」


 


 


 


15・杉田・同1996年3月上旬


 


3月になったからといって、急に暖かくなるわけじゃない。


 


今日は寒くて、ついでに、なにか嫌な感じがする。


 


ああ、早く松下、登校してこないかな。と、


 


教室の入り口のドアを見てたら、斉木が登校してきて、僕を見つけるなり言った。


 


「杉田、聞いたか!」


 


「なにを?」


 


「松下だよ。あいつ、3月いっぱいで転校するってよ」


 


「うそ!」


 


なにっ、こういうのを青天の霹靂(ヘキレキ)というのか!


 


「うそかどうかは、本人に聞いてみろよ。


 


 俺はさっき、職員室で先生が他の担任と話しているのを小耳に挟んだだけだからな」


 


「・・・」


 


ぼーっとしてたら、松下が教室に入ってきた。


 


ああ、松下!


 


「おはよう、杉田、斉木くん」


 


「おはよう・・・」


 


「? どうしたの、変な顔して」


 


「松下、転校するのか?」


 


「あらー、早耳ねえ。今日、言おうとしてたんだけど。そう、春休みに入ったら引っ越すんだ」


 


「どこに?」


 


「都内」


 


「なんで?」


 


「おうちの事情」


 


「・・・高校生なのに、親について行くのかよ」


 


「私の勝手だね」


 


そこに斉木が割り込んだ。


 


「杉田、そんな言い方はないだろ」


 


「だって!」


 


「おまえ、その松下の親のおかげで、松下と出会えたんじゃないか。


 


 こいつ、それで4月に転校して来たんだから。


 


 クラス替えした一学期からいたから、忘れてたか?」


 


「・・・いや」


 


そうなんだ。


 


だけど。


 


何秒か沈黙していたら、松下が言った。


 


「杉田。なかなか楽しい1年だったよ。杉田のおかげだよ。ありがとう^^」


 


「うっ」


 


「二人とも、もう会えないわけじゃあないんだろ?」と、斉木。


 


「そうだ!」


 


これはどうだろう。


 


「は?」


 


「松下。俺、おまえと志望校同じにしてもいいか?」


 


「えっ! ・・・受験料もったいないよ」


 


「なにィ」


 


「言われてやんの。杉田」


 


斉木が笑っている。


 


「絶対受かってやる!」


 


僕はただ、松下と縁を切りたくない一心でそう言った。


 


「冗談だよ。うん。がんばって、そしたら、また同じ学校だね」


 


松下は、明るい笑顔で言った。


 


「ああ」


 


 


 


16・松下・翌日


 


家の自分の部屋で、勉強の合間にベッドに寝転んで天井を見ていたら、


 


電話が鳴った。


 


起き上がって、電話を取りに行く。


 


「はいはいはい、はーい、松下です」


 


『もしもし、椎名と申しますが、実津子さんは・・・』


 


「椎名! 私!」


 


『ああ! 松下か!』


 


「なあに?」


 


『いやなに、おまえ、ホントに帰ってくるんだな?』


 


「もちろんだよ。そのために毎日勉強してたんだから!」


 


 


 


17・杉田・同1996年3月中旬


 


日曜に、一人で駅まで、松下へのホワイトデーのプレゼントを探しに出た。


 


 


・・・まるで趣味が分からないな。


 


あいつ妙にさっぱりしてるから、女の子っぽいものだとがっかりされそうだし、


 


かといって中性的なものではプレゼントっぽくないような感じがするし、


 


ふー。


 


というか、同じ大学に行けなかったら、もう松下を彼女にできる可能性はないだろうな。


 


落ちて浪人したら、さらにもうあと1年会えなくなるし。


 


・・・考えたくない。


 


 


 


 


 


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