6 君を知ってから虹を見ない [君虹【完結】]

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18・松下・同1996年3月14日


 


放課後。


 


校舎の昇降口で、靴を履き替えていると、背中越しに杉田の声が私を呼び止めた。


 


「松下、待って!」


 


「え?」


 


「話があるんだ。一緒に帰ろう」


 


「おっけぃ」


 


 


校門を出て、10分弱?歩いたころ、


 


学校と駅のほぼ中間地点にある富士見公園の横を通りかかって、


 


私がちらりと杉田を見たら、彼が公園を指差して、


 


「ここで」


 


と言って中へ入っていったので、私は彼の後についた。


 


ここの公園は駅側の入り口に小さめのグラウンドがあって、


 


その奥がケヤキと桜の並ぶ遊歩道になっている。


 


ケヤキも桜もまだ葉が出ていないので、今の時期は日当たりがいい。


 


それと、低木のツツジはよく茂っている。よくみると、古い葉の上から新芽も伸びてきていたり。


 


 


杉田が遊歩道に点在するベンチのひとつに腰掛けたので、私はその隣に座った。


 


「それで、なあに?」


 


「ああ、まずこれ」


 


彼はリュックから手のひらくらいの丸井の紙袋を取り出して言った。


 


「これ、今日、ホワイトデーだから、もらって?」


 


「あ、いいの?」


 


「もちろん。俺、あのチョコもらわなくたって、松下に何か送りたかったよ。


 


 ・・・クリスマスには、贈りそびれてるから」


 


「く、クリスマス・・・って、私も贈ってないね。交換ことかしたらよかったかな?」


 


私が包装を開けていいか聞こうとしたとき、


 


杉田は真顔のまま言った。


 


「松下。俺、ずっと前からお前が好きだ。俺と付き合ってくれ」


 


・・・


 


杉田。


 


わかってるの?


 


「私、あと10日も、この町にいないんだよ?」


 


「1年、待ってくれ、俺、本当に来年、お前と同じ大学に入れるように今以上、努力するよ」


 


「・・・」


 


「だめか?」


 


「でも私、私はまだ、誰かと恋愛なんて、考えられないよ」


 


「松下・・・」


 


・・・どうしたらいいんだろう。


 


私が杉田と付き合う? ああ、楽しそうかもしれない。


 


でも、私はまだここの人たちに言っていないことがある。


 


それを今、杉田に言うべきかしら?


 


それで杉田は私のこと好きじゃあなくなるかしら?


 


そうかな?


 


そうは思わないけど、でも、


 


「ごめん、杉田。私、まだ約束できないよ。


 


 でも、1年後、杉田が私と同じ大学に入っていたら、


 


 そして、私がまだ今と変わらず杉田のことを良くかっていたら、


 


 私は、私たちがもっと仲良くなれるかを真剣に考えるよ」


 


「・・・やっぱり、保留なのか」


 


「本当に、遊んでいる時間なんて、ないんだよ?」


 


「分かってるさ!」


 


「ね、だから、毎日勉強に励んでいたら、いなくてもだけど、1年なんてあっという間だから」


 


「松下」


 


「・・・」


 


「俺たち、友達ではいられるか?」


 


「そうね、会えなくなるけど、時々手紙を書くよ」


 


「俺、電話もするよ」


 


「うん。ねえ杉田、元気にしていたら、明日は来るんだから、そんな顔しないで?」


 


「ああ」


 


「私たち、また会えるよ」


 


「松下」


 


「・・・」


 


「一瞬だけ」


 



 


 


春風のような、一瞬の出来事。


 


私たちは1年友達をやって、今、初めてキスをした。


 


 


彼は、「また明日」とだけ言い残し、走り去った。


 


 


 


 


 


 


 


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