7 君を知ってから虹を見ない [君虹【完結】]

6話目→ http://marscat.blog.so-net.ne.jp/2009-04-07


II


19・杉田・翌1997年4月


 


あの春が過ぎ、


 


進級して高校3年になり、


 


夏が来て、去り、


 


秋が来て、去り、


 


冬が来て、去り、


 


また春が来て、僕は大学生になった。


 


ちゃんと現役で、あの入りたかった大学の入学許可証と学生証をもらった。


 


しかし、松下がここに入学したかは分からない。


 


2つの試験会場でも、合格発表の日にも、会えなかったから。


 


だけど、僕が受かって、松下が落ちるなんてことはあるはずがない。


 


電話でも松下は受かったと言っていた。


 


今日、この大学内で待ち合わせもしてある。


 


指定された場所は、


 


講堂の南、


 


小さな広場の西端のベンチ。


 


 


1年は長かった。


 


長かったよ、松下。


 


約束していたスキーにも行けなかった。


 


あれが、講堂だな。


 


で、あれがその手前の小さな広場で、


 


松下はどこだ?


 


 


 


20・松下・同日


 


「椎名、私、これから友達と待ち合わせがあるから、今日のお昼はパスね」


 


椎名、椎名圭二(しいなけいじ)は私の、


 


私が杉田のいた高校に移る前に通っていた高校で親しかった友達の一人だ。


 


「友達? 例の杉田ってやつ?」


 


「そうよ」


 


「俺も行く」


 


「だめだよ。話がややこしくなっちゃうから」


 


「いいじゃないか、俺だって、友達だろ?」


 


「そうだけど、関係ないじゃん」


 


「あるだろ。俺のせいで、その杉田と出会うことになったようなものだろ?」


 


「あー、もう!」


 


 


私たちが講堂の南の小さな広場に小走りで駆けていったとき、杉田はすでに来ていて、


 


約束した西端のベンチに座っていた。


 


杉田と私はすぐに互いに気がついて目が合った。


 


第一声、杉田は言った。


 


「松下! 松下、なんか変わったな」


 


杉田は一旦立って私をとなりに座るよう促して、二人はそこへ座り、


 


椎名は私たちの隣のベンチにさり気なく腰を下ろした。


 


「お待たせ、杉田」


 


「全然! なんか、大学生みたいにかっこよくなった。いや、前から美人だったけどさ。


 


 さらに、垢抜けた?」


 


「なに言ってんの? 私もここの大学生だよ?」


 


杉田こそ、いくらか背が伸びて大人っぽくなった。


 


まぶしい笑顔も、以前とまったく同じには見えない。


 


「そうかもしれないけど。なあ、学生証、見せてくれよ。俺、まだ信じられないよ」


 


「・・・学生証?」


 


「なんだよ。何か問題でも?」


 


「なにも。待って」


 


私は内心ドキドキしながらウエストポーチから免許入れを取り出し、そこから学生証を引き抜いた。


 


「どうぞ」


 


「ああ」


 


私はまだドキドキしながら杉田の反応を見た。


 


「・・・」


 


「・・・松下」


 


「はい?」


 


「松下、今年の入学じゃあないのか?」


 


やっぱり気づいたか。


 


「ん~」


 


私が言葉を濁すと、横から私たちを見ていた椎名が口出しして言った。


 


「おい、おまえ、松下は今年2年だぞ」


 


「え? っていうか、あなたは誰?」


 


杉田は一瞬きょとんとしたけれど、すぐに椎名をじっと見た。


 


椎名のほうは気にしないふりか、普通に言った。


 


「俺? 俺は松下の高校のときからのダチさ。


 


 友達の友達は友達ってことでよろしく。椎名圭二だ」


 


「・・・俺は杉田文一・・・」


 


 


 


 


 


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